
中編では、京都の空き家がいまどれだけ身近な問題になっているかをお話ししました。今回は、もう少し視野を広げて、「どう活かすか」「どこへ向かうか」を考えてみたいと思います。
海外に学ぶ「空き家活用」のリアルな事例
NHKの特集「2040年 空き家数全国予測マップ」によれば、2040年には全国の空き家数は今の2倍、約712万戸になるといわれています。京都市でも伏見区、右京区、左京区、宇治市といったエリアで空き家数が1万戸を超えると予測されています。
こうした状況に対して、他国はどう取り組んでいるのか──たとえば、イタリアのサンブーカという町では、空き家を「1ユーロ」で売る政策が話題になりました。建物は老朽化していましたが、条件としてリノベーションを義務づけ、移住者を世界中から呼び込んだのです。結果として、地域に活気が戻り、新たな商業施設や観光資源が生まれたという成功例です。
サンブーカの取り組みからわかるのは、「空き家は単に問題ではなく、“再生の種”にもなる」ということです。
参照:
住宅の特価販売で地域活性化の町、第3弾は3ユーロで 伊シチリア(1/2) - CNN.co.jp : https://www.cnn.co.jp/travel/35221385.html
京都でそれはできるか?──空き家 活用の視点から
京都には京都なりの事情があります。文化財や景観条例、町家の独自構造など、イタリアのように“大胆に売る”ことは難しい面もある。ただ、京都の空き家の多くは町中にあり、立地が良く、住居としてだけでなく、店舗やシェアスペースなど多目的に転用できる可能性を秘めています。
また、京都は国内外からの移住ニーズや、地方に拠点を持ちたい都市民の関心も根強い都市です。サンブーカのように安価で空き家を手放す形とは違っても、「誰かにバトンを渡す」仕組みを整えれば、十分に再生の道はあると思っています。
空き家を手放すという選択が、地域の未来につながる
前編でも少し触れましたが、NHKの記事では「相続しても、なんとなく置いてある空き家」が問題だと指摘されています。実際に僕のまわりでも、「名義変更してないまま何年も経ってる」とか、「どうせ売れないと思って放置してる」という声を聞きます。
けれど、手放す=無責任 ではないんです。
むしろ、「自分で使わないけれど、誰かに使ってもらいたい」という気持ちは、まちにとってはものすごくありがたい意思表示だと思います。
空き家 マッチングという「つなぎ方」
ここで出てくるのが、「空き家 マッチング」という考え方です。
たとえば、akimii(アキミー)というサービスでは、空き家を無料で登録するだけで、宅建士から活用提案が届きます。売るでも貸すでもない、第三の選択肢──たとえば「地域のカフェに」「学習スペースに」「移住者の試住体験に」──そんなアイデアが広がっていくのです。
この「提案を受けてから考える」という仕組みが、多くの人の背中を押してくれるんじゃないかと思います。
NHKの記事でも触れられていた“住まいの終活”という考え方。空き家の相続後3年以内にどうするかが重要になるという指摘。これも、マッチングのような仕組みがあるからこそ、動き出せる人が増えるんじゃないでしょうか。
僕が空き家を見つめる理由──宅建士として、父として
僕は店舗デザイナーであり、宅建士でもあり、三人の子どもの父親でもあります。これから子どもたちが大きくなり、自分の家を持ち、また親世代の家を受け継いでいく。そんな未来を考えると、「空き家」って、決して遠い問題じゃない。
地元に住み続けたいという気持ちと、この地域の未来をどう描けるか。その交差点に、空き家活用の可能性がある気がしています。
最後に──空き家を、もう一度“誰かの場所”に
空き家は、寂れた建物でも、使われない不動産でもなく、次の誰かにつなぐ“余白”です。
そこに人の思いとアイデアが重なれば、地域の新しい拠点になる。宅建士やデザイナーの立場からできること、そして暮らす人としてできること──その両方をつなげる仕組みが、これからはもっと必要になる。
そのひとつの答えが、空き家マッチングなのだと思います。