地域別・空き家活用レポート

【山科区・小野】空き家をシェアハウスへ──暮らしの器を、まちの中で分け合うということ

京都市山科区、小野。
地下鉄東西線で街中から少し離れたこのエリアには、ほどよい静けさと生活のにおいが混ざった空気が流れている。

駅から徒歩4分の場所にあった空き家が、今は若者たちのシェアハウスとして生まれ変わっているという話を聞き、興味を持って現地を訪ねた。

参照:京都アパートメント 9 山科小野 :: 京都アパートメント|https://www.kyoto-apartment.com/jp/list/ka-09?utm_source=chatgpt.com

名前は「京都アパートメント9 山科小野」。もともとは築年数の経った戸建てだった家が、共同キッチンやリビング、専用の個室を備えた暮らしの拠点に変わっていた。

この事例に、私は「空き家活用のヒントが詰まっている」と感じた。

空き家、不動産、マッチング──その真ん中に“共感”がある

宅建士としての視点で言えば、山科のようなエリアの空き家は、いわゆる「流通しづらい物件」に分類されやすい。築古、立地はやや郊外、間取りも現代的ではない。

でも、だからこそ“共有”というキーワードが活きる。住まいを一人で抱え込まず、分け合うという選択肢。

シェアハウスは、ただ安く住むための形ではなく、「まちに住むこと」の意味をもう一度問い直す暮らし方だと私は思う。

山科のこの物件も、「駅近+ちょっとレトロ」な魅力を活かしながら、DIYや住人同士のつながりを前提とした暮らしを設計していた。

マッチングの妙とは、こういう「物件の素朴な魅力」と「住まい手の価値観」が偶然じゃなく、必然として出会うことだと思う。

妻と子どもたちが教えてくれる、“他者と暮らす”という感覚

私は三児の父であり、元看護師の妻と暮らしている。

毎日がドタバタで、誰かの持ち物がリビングに落ちているのは日常茶飯事。
でもその雑多な暮らしこそが、人が人らしく暮らしている証でもある。

妻は言う。

「シェアハウスって、誰かが近くにいるってことだけで安心できる人もいると思うよ」

この一言は、空き家活用を「ビジネス」だけで捉えていた私にとって、強く響いた。

空き家は、使い方次第で「生活の孤独」を和らげる装置にもなりうる。
とくにこの山科のような静かな住宅地では、その可能性がいっそう広がっているように感じた。

店舗デザインと空き家活用の重なる場所

私は店舗デザインの仕事をしている。
人の動線、光の入り方、素材の選び方──そうした設計の要素は、空き家を再生する場面でもそのまま応用できる。

この山科のシェアハウスは、「使いやすく整える」ことよりも、「使いながら育てる」ことに重きが置かれていたように思う。

手をかけすぎない。完璧を求めない。
その“余白”があるからこそ、入居者が手を動かし、アイデアを持ち寄れる空間になる。

これは、空き家活用の新しい美意識だと感じた。

山科区という場所の“伸びしろ”

京都市の空き家予測マップを見れば、山科区も例外ではない。2040年までに空き家が急増する地域のひとつに数えられている。

ただし、山科はアクセスの良さや買い物利便性など、暮らすまちとしてのポテンシャルが高い。だからこそ、「放置される空き家」ではなく、「使われ方を工夫できる空き家」が多く眠っている地域でもある。

不動産の価値は、立地や築年数だけで測れるものじゃない。
どんな人がどう使うか。
その可能性を提案できることこそ、宅建士やデザイナーとしての役割なのだと改めて思わされた。

最後に──空き家は、暮らし方そのもののアップデート

空き家を活用することは、まちに灯りをともすだけじゃない。
人と人の距離、暮らし方、住まい方を“今の時代らしく”書き換えていく作業でもある。

山科・小野のように、静かだけど可能性に満ちた場所で、こうした空き家マッチングが行われていること。
それは、京都というまち全体にとっての希望でもあると、私は信じている。

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