
京都で暮らし、設計の仕事をしていると、空き家と出会う機会は少なくありません。
空き家というと、どうしても「放置された建物」「管理の手が回らない不動産」というイメージが先行しがちですが、そこに暮らしがあり、記憶があり、建物そのものがまちの時間を蓄えていることに、私は現場を通して何度も触れてきました。
akimiiという空き家マッチングサービスを運営する中で、全国各地、そして海外にも目を向けるようになり、「活用」という言葉に込められる意味の広がりに気づかされています。
ここでは、2000年代以降に実際に実施された空き家活用の事例をいくつかご紹介しながら、私自身がそこから感じたこと、そして京都という土地でそれをどう活かせるかについて綴ってみたいと思います。
三重県・伊勢河崎商人館(2002年〜)
伊勢神宮の門前町・河崎地区で、NPO法人によって旧家や蔵が地域資料館に生まれ変わった事例です。

出典:https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/02/020707/03.pdf
築100年を超える建物を、歴史を伝える場として整備し、観光客だけでなく地元住民も利用できるようにされた取り組みを知ったとき、私は「空き家の活用=利益化」だけではないことを再認識しました。
私の祖母も町家のような古い家に住んでいたので、そのたたずまいや空気感にはどこか懐かしさを感じます。京都のように観光と暮らしが密接な都市にとって、こうした地域の顔を再編集するような取り組みは大きな示唆を与えてくれるように思います。
徳島県・美波町 谷屋(たにや)
登録有形文化財を地域の交流拠点に再生した例です。

空き家が「誰かが住む」だけでなく、「人と人が会う場所」になる。
この発想は、店舗デザインをしている私にとって、空間設計のあり方を問い直す機会にもなりました。
特に京都の空き家は、建て替えが難しかったり、構造が制限されたりすることも多いですが、だからこそ“つかいにくさ”を“魅力”に転じる空間づくりが求められているのだと思います。
徳島県・神山町「山西」
未来について考える場「ホマレノ森研究所」として古民家を再生した事例も印象的でした。

山深い土地でこそ、思考と対話が生まれる。
京都の山間部にも似た空き家が数多くあります。都市の賑わいから少し離れた場所で、人が立ち止まり、考え、学び直す空間をつくる。
空き家を“賃貸”の枠にとらわれず、“概念の場”として活かす可能性を、こうした事例は教えてくれるように感じます。
徳島県・つるぎ町 茶屋コリトリ
築96年の空き家を、電気屋から茶屋に変えた取り組み。

出典:移住女性が徳島県つるぎ町で古民家カフェ 無農薬栽培の茶葉も販売 [徳島県]:朝日新聞 : https://www.asahi.com/articles/ASQ6S77HBQ6SPTLC004.html
日常の延長線上にある空き家活用でありながら、地域の居場所として自然に定着している点が特徴です。
私の仕事でもよくあるのが、「ちょっとした改修で、人が集まれる場所になるか」という相談です。
一棟まるごとのリノベーションでなくても、丁寧に誰かの生活を受け入れる器にしていくことで、空き家は静かに動き出す。
この「そっと使う」感覚は、京都の空き家事情とも非常に親和性が高いと感じます。
後半では、アメリカやイギリスなど、海外における空き家再生の実例を取り上げながら、「賃貸」「社会的課題の解決」「素材と空間の再定義」という観点から、さらに深めて考えてみたいと思います。
京都で空き家をどう活かすか──その方法は一つではない。
活用とは、所有ではなく、共に場を耕していくことなのだと、あらためて感じています。