
ここからは、アメリカやイギリスなど海外の空き家活用事例を取り上げながら、そこから得た視点を京都にどう活かしていけるのかを考えてみたいと思います。
アメリカ・マサチューセッツ州 Cable Mills
かつて毛織物工場だった建物が、住宅コンプレックスへと再開発されました。

出典:Cable Mills | Now Selling Flats, Lofts + Townhomes : https://www.cablemills.com/
敷地内には中低所得者向け住宅も含まれており、「歴史的な場所を現代の暮らしに翻訳する」という空き家活用の理想形を体現しています。
京都にも元工場や職人の作業場として使われていた町家があります。歴史ある建築を、ただ保存するのではなく、人の暮らしに寄り添わせる形で再編集していく。そのバランス感覚に共感しました。
アメリカ・イリノイ州 Tiger Senior Apartments
旧校舎をリノベーションし、高齢者向け賃貸住宅へ転用した事例です。

出典:Tiger Senior Apartments - WJW Architects : https://wjwarchitects.com/work/tiger-senior-apartments/
高齢化が進む京都では、住まいのあり方も変化が求められています。
建物の“過去の用途”を活かしながら、誰かの“これからの生活”を支えるという考え方は、空き家がまちのインフラとなる可能性を示してくれました。
アメリカ・ペンシルベニア州 Bok Building
廃校となった建物が、レストランやアートスタジオ、NPOのオフィスなど多様な用途を持つ複合施設へと再生されました。

出典:BOK : https://www.buildingbok.com/
「誰のものか」を曖昧にし、「まちの共用部」にしていくという柔らかい感覚。
私も、設計の現場で“誰かのためだけでない空間”をつくる難しさと面白さを日々感じています。
京都の空き家が、こうしたハブ機能を持つ場に育っていくこと。 それは、賃貸か売却かの二者択一ではなく、“第三の選択肢”を生み出すことだと思います。
イギリス・ブライトン Waste House
廃棄物から建設された実験住宅。デニムや歯ブラシ、断熱材などを再利用して作られたこの住宅は、「建物とは何か」という根源的な問いを投げかけています。

空き家の活用を考えるとき、素材に目を向ける視点も欠かせません。
京都の町家にも、古材を活かした建て替えや修繕が増えてきました。
空き家という存在を“残された問題”としてではなく、“使われる素材”として扱うという思想。
これからの空き家活用は、空間そのものを再利用するだけでなく、そこに含まれる記憶や素材、時間軸をどう織りなおすかという仕事でもあると感じています。
最後に
国内外の事例に共通するのは、「空き家は使われることで、地域と再びつながる」という視点でした。
方法は違っても、本質は「誰かの手に渡ること」ではなく、「誰かの暮らしが宿ること」。
京都という街の中で、空き家は静かに増え続けています。
でもその一方で、再び暮らしを受け入れる準備が整っている家もまた、増えつつあると私は感じています。
活用とは、合理的な方法ではなく、丁寧なまなざしのこと。
空き家の数ではなく、その先にある関係性の数を増やしていけるように、私たちも現場から考え続けていきたいと思います。