京都の空き家事情と制度解説 空き家オーナーの本音と実例

「空き家相続、兄弟の絆と葛藤」──ある家族の物語

2025年5月21日

春先、北大路の自宅近くにあるカフェで、昔からの友人と久しぶりに会った。 その友人は、京都市内の古い一戸建てを相続したばかりだった。 「実家をどうするか」で、妹さんと意見が割れているという。

彼の話を聞きながら、私自身もふと自分の家族や将来のことを重ねていた。 空き家の問題って、社会的な課題というより、“個人と家族”の問題なんやと、改めて感じた。

空き家になった実家と家族の想い

その家は、築50年を超える木造住宅。 手入れはされていたものの、さすがに老朽化は進んでいて、耐震性も不安があるとのことだった。 京都らしい間口の狭い町家風の造りで、玄関から土間を通って、奥に小さな庭がある。

彼の父親が長年住み続けていたが、数ヶ月前に急逝。 突然訪れた“空き家”という現実に、兄妹は戸惑っていた。

「私は東京にいて、正直あの家に戻る予定はないの。売るしかないよね」

と妹さん。

「でもなあ、売ってしまうのはちょっと…」

と友人。

このように、感情と現実の間で揺れるのは決して珍しくない。

空き家相続が抱える課題

まず大前提として、空き家を相続したら「相続登記(そうぞくとうき)」が必要になる。 これは、法務局にその不動産の名義変更を届け出る手続きのこと。 2024年4月からは、この相続登記が義務化され、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料(罰金)が科されることになった。

放置すればするほど、建物も土地も劣化し、売却もしづらくなる。 近隣住民とのトラブルに発展するケースもある。

空き家問題が社会問題として取り上げられるようになった背景には、こうした“放置空き家”の増加がある。 京都市内でも2023年時点でおよそ1万5000戸以上の空き家が確認されており、行政も対策に乗り出している。

解決の糸口は「活用」か「売却」か

友人たちは専門家に相談することにした。 相談先は、京都市内で空き家活用を支援するNPOと、相続に強い不動産会社。

提示された選択肢は、大きく以下の3つだった。

  1. 売却
    1. 売却益を兄妹で分けることができる。
    2. ただし、町家など地域的・文化的価値がある場合は、保存や再活用の方向で調整が必要になることも。
  2. 賃貸に出す
    1. リフォームして賃貸物件として貸し出す。
    2. 維持管理の手間や費用は発生するが、継続的な収入を得られる。
  3. 空き家バンクや移住支援制度の活用
    1. 京都市や各地自治体では、空き家を移住希望者に紹介する制度がある。
    2. 移住者向けに補助金やリノベーション支援が出るケースも。

妹さんは、最初は売却を主張していたが、話を進めるうちに「それなら、地域に開く形で使ってもいいかも」と考えが変わっていった。

最終的な選択と、それに至るまで

結局、彼らは「賃貸活用+地域連携」の方向を選んだ。 地元の工務店に相談し、最低限の耐震補強と水回りの改修を行ったうえで、 移住希望者に貸し出す形をとった。

家の雰囲気はなるべく残したまま、誰かに住んでもらう。 それは、「家を残したい」という兄の想いと、「現実的に動かしたい」という妹の気持ちの、ちょうど中間にあたる選択やったんやと思う。

「空き家」は、家族の記憶と未来の交差点

この一連の話を聞いて思ったのは、空き家って、“ただの不動産”ではないということやった。

記憶が詰まっていて、親の生き方が染みついていて、だからこそ「どうすればええのか」が簡単には決められない。

そしてそれは、兄妹間の関係性とか、将来どう暮らしたいかという“価値観の違い”が顕在化する場でもある。

誰にでも起こりうる空き家の問題に向き合うには

空き家の問題は、もはや他人事やない。 日本では2030年までに3軒に1軒が空き家になるとも言われている。 (※総務省「住宅・土地統計調査」より)

これからの時代、「家をどう扱うか」が、人生の節目ごとに出てくる問いになってくるんやと思う。

そのとき大事なんは、「誰に相談できるか」「どこに頼れるか」やと思ってる。

相続税と空き家の現実的な壁

今回のように家を残す選択をする場合、もうひとつ大きな問題がある。それが「相続税」

京都市内の土地は、場所によっては評価額が高くなりがちで、課税評価額が基礎控除額を超えると、相続税がかかる。

土地の評価は「路線価(ろせんか)」と呼ばれる、道路に面する土地の1平方メートルあたりの価格を基準に決まる。 これが思ったより高い。

建物は古くなっても評価額は下がるけど、土地はなかなか下がらへん。 これが厄介。

しかも、現金で支払う必要があるから、「家は残したいけど、お金がない」というジレンマにもつながる。

彼の場合は幸い、家の評価がそこまで高くなかったため、相続税は発生しなかった。 けど、これは条件次第で誰にでも起こりうる話。

「誰に貸すか」も大事な視点になる

空き家を貸すって言っても、やっぱり「どんな人に住んでもらうか」は気になる。 近所との関係性や、家を大事に使ってくれるかどうか。

最近では、単なる賃貸ではなく「地域活動に参加してくれる人に貸したい」とか、「庭を手入れしてくれる人なら安く貸したい」とか、 オーナーの価値観を反映した貸し方も増えてきてる。

実際、友人の家も、町内会に溶け込んでくれる若い夫婦が借りてくれることになって、「これなら安心や」とほっとしてた。

空き家活用って、単に経済的な損得の話だけやなくて、人とのつながりや信頼感も、大事な要素になる。

最後に:自分や家族に、そっと問いかけてみる

「実家、もし誰も住まなくなったらどうする?」

この問いを、家族で話すだけでもええと思う。 放置することの怖さより、「ちゃんと考えてる」という安心感が生まれる。

akimiiとしても、こういう物語をたくさん集めて、届けていけたらと思っている。 答えは一つやない。 でも、一緒に悩むことはできる。

その空き家、物語の続きを考えてみませんか。

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