京都の空き家事情と制度解説

京都の空き家バンクとは?──活用のメリットと、知られざる落とし穴

2025年5月22日

このあいだ、少し気分を変えようと京都駅前のスターバックスに立ち寄ったんです。 いつもなら北大路の事務所で仕事をすることが多いんですけど、 その日は朝からちょっと煮詰まっていて。(それにしてもインバウンドが多い!)

カウンターの端っこに座って、カフェラテを一口。 PCを開いてakimiiのアンケート

【宅建士さん、不動産関係者の皆様へ】空き家相談の現場で感じていること、教えてください。|https://docs.google.com/forms/d/10kshJECaNVhKX9OO3LmiVi-oaKqk5JWjQu3wPwJMQoE/viewform?edit_requested=true

の整理をしてたら、隣のテーブルから聞こえてきたんです。

「うちの実家、もう誰も住んでへんし、空き家バンクってとこに登録しよかって親が言っててん」

耳がピクっと反応しました。 空き家、空き家バンク、登録…… 不思議なもので、普段から空き家活用のことを考えているからか、 そういう言葉にすごく敏感になっている自分がいます。

街なかで誰かが「空き家」って言うだけで、ちょっと気になって聞いてしまう。 まるでアンテナが勝手に立ち上がるみたいな感じです。

聞き耳を立てるつもりはないけれど、 それが身近なテーマになってるということの現れかもしれません。

さて、今日はその「空き家バンク」という言葉について。 実際に関わっている私の立場から見えてきた、 制度のこと、利用の流れ、メリットや落とし穴、 そして、私たちが京都から始めた「akimii」というサービスとの違い── じっくり掘り下げてみようと思います。

空き家バンクとは?──仕組みをひとことで言うと

まずは基本から。 空き家バンクとは、自治体が運営する“空き家の情報掲示板”のようなもの。 家を持て余している人が、借りたい・買いたい人に情報を届けられる仕組みです。

京都市では京都市住宅供給公社が運営を担っていて、 町家や築古物件などを中心に、常時200件以上が掲載されています。

登録は原則無料。 希望すれば、耐震改修やバリアフリー対応のための補助金が受けられることもあります。

行政が運営しているという安心感。 それだけで「じゃあ登録してみようか」と思う方も多いのですが、 実際のところ、登録してすぐ借り手や買い手が見つかるわけではないのが現実です。

「安心」だけでは届かない──空き家バンクのメリットと限界

空き家バンクの良いところを挙げるなら、 まずはやはり「信頼性」でしょう。

変な業者とつながる心配がない、 役所や公社のサポートがある、 登録料も不要。

制度として整っているので、 空き家を初めて動かす人には安心な入口になります。

それに、補助金も大きな魅力です。 たとえば京都市では、一定の条件を満たせば、 最大100万円の耐震補助が出ることも。 古い家を人に貸す・売るための後押しとして、 確かに意味のある制度だと思います。

しかし一方で、登録した物件が“ずっと掲載されたまま”になるケースも少なくありません。

なぜでしょうか? それは、空き家バンクが“紹介してくれるサービス”ではないからです。

登録すれば済む話ではない──「待ち」のシステムが持つ難しさ

空き家バンクは、あくまで「情報を掲載する場」。 つまり、物件を登録すれば、あとは誰かが見つけてくれるのを“待つ”ことになります。

これが、不動産仲介業者との最大の違いです。 仲介会社は物件を紹介し、内覧を設定し、条件交渉もしてくれる。 でも空き家バンクには、そうした「動き」がない。

もちろん、自治体職員や公社の方々も一生懸命やられています。 ただ、制度上できることには限界があります。

たとえば、ある60代の男性が実家を空き家バンクに登録したところ、 「2年間で問い合わせは1件だけ」だったそうです。 築50年、駅から徒歩20分。 立地が悪いわけではないけれど、希望価格が高く、交渉もなかなか進まなかったといいます。

別のケースでは、学生向けに貸したいと考えていた物件が、 家族層に人気のエリアにあったため、需要とマッチしなかった。

つまり、登録しただけでは動かない。 むしろ、マッチングが起きるまでの「温度差」と「情報の非対称性」が、 利用者の期待を裏切ってしまうこともあるのです。

空き家税の導入で、空き家を放置しづらくなった現実

そしてもう一つ、近年の大きな変化として「空き家税」があります。 正式名称は「非居住住宅利活用促進税」。 京都市では2024年から本格的に導入されました。

これは、一定期間誰も住んでいない住宅に対し、 自治体が“税金”をかけるという制度です。

税額は土地や建物の評価によって変わりますが、 ざっくり言うと、年に数万円から十数万円の追加負担が発生する可能性があります。

この制度の目的は、「空き家を放置させないこと」。 景観や防災、治安の問題にも関わるため、 “誰かが住んでいないといけない”という強いプレッシャーが生まれています。

空き家を相続したけど、どうしていいかわからない。 なんとなく放置していた。 そのままにしていたら、今度は税金がかかる──

多くの人が今、その岐路に立たされています。

空き家バンクは「きっかけ」にすぎない──他の選択肢と組み合わせて考える

空き家バンクは、あくまで“制度”です。 制度である以上、平等で、条件が明示されていて、誰でも使える反面、 柔軟な対応や細やかな提案にはどうしても限界があります。

私がこれまで関わってきたなかでも、 空き家バンクに登録してうまくいった方もいれば、 「登録はしたけど何も起きなかった」と肩を落とした方もいます。

だからこそ、こう思うんです。

空き家バンクは“最初の一歩”としては良い。 でも、それだけでは不十分なこともある。

むしろ、空き家の状態や家主の想いによって、 もう少し“人の手”が介在するサービスの方が向いている場合もある。

akimiiという「人と提案がある仕組み」──空き家活用のもうひとつの選択肢

私たちが京都から始めた「akimii」というサービスは、 空き家バンクとは違う形で、空き家に向き合う仕組みを考えています。

「提案を受けてから考える」ことができる。

それがakimiiの大きな特徴です。

宅建士とつながり、物件を見てもらい、 「貸すならこんなふうに」「売るならこの価格帯で」 「こういうリノベができるかもしれませんね」と、 専門家と一緒に考えられる余白を持った仕組みです。

さらに、akimiiでは“まだ決めきれていない人”も対象になります。 「売るか貸すか、そもそも残したい気持ちもある」 そんな状態からでも、対話をスタートできる。

これは制度ではなく、“関係性をつくるサービス”です。

「この家、どうしたらいいやろ?」──その問いに、一緒に向き合える存在でありたい

空き家の問題に向き合うとき、 制度や市場だけでは語れないものがあると私は思っています。

それは、家に対する気持ちだったり、 育った土地への思いだったり、 亡くなった親への感情だったり。

そしてそれは、誰かと話すことで、ようやく整理されていくものでもある。

空き家バンクは、素晴らしい制度です。 でも、制度に気持ちは添えられない。

akimiiは、その“間”に立てる存在でありたい。

だからこそ私は、スタバでふと耳に入った会話にも反応してしまうのかもしれません。

空き家のこと、迷っていたら。 まずは誰かに話してみること。

制度を使ってみるのもいい。 akimiiのようなサービスを使って、誰かに提案してもらうのもいい。

その家を「残す」か「手放す」かは、どっちでもいいんです。 でも、「ちゃんと考えた」って言える時間を持てたら。 それだけで、次の一歩はきっと軽くなると思います。

その一歩に、私たちがそっと伴走できたら。 これほど嬉しいことはありません。

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