
少し前のこと、伏見の現場帰りに路地を歩いていたら、小さな看板を見つけた。
「本日OPEN」。古びた引き戸の横に、手書きのボード。中からコーヒーの香りがして、カウンターに若い店主がいた。聞けば、もともとは10年以上空き家になっていた祖父の持ち家だという。
「カフェにしたかったわけじゃないんです。でも他に使い道がなくて、思い切って」と笑っていた。
これ、実はよくある話になってきた。京都の空き家がカフェや飲食店に生まれ変わる事例が、ここ数年でじわじわと増えている。
「うちの空き家でもできるのかな」と思っている方に向けて、今日は実際の事例を3つ紹介しながら、用途転換のリアルを書いてみる。宅建士・一級建築士の目線で、できること・できないこと・費用感まで正直にお伝えします。
この記事でわかること
- 京都で空き家をカフェ・飲食店に活用した事例3選
- 用途変更が必要なケース・不要なケースの違い
- 工事費用の目安と資金調達のヒント
- 「うちの物件でもできるか」を判断するチェックリスト
- akimiiに相談すると何が変わるか
空き家をカフェ・飲食店に活用する前に——京都の現状をまず整理しておく
「空き家 カフェ」で検索してみると、たしかに事例記事は出てくる。でも「自分の物件でも本当に使えるのか」という問いへの答えが書いてある記事は少ない。
まず大前提から話す。
空き家をカフェや飲食店として使うには、ざっくり言うと「建物の用途を変える手続き」と「飲食店の営業許可を取ること」の2軸が必要になる。この2つを整理せずに突き進んだ結果、工事の途中で止まったというケースを私は何件か見てきた。
用途変更が必要なケースとは
建築基準法では、建物の「用途」が変わるときに確認申請(用途変更届)が必要になる場合がある。具体的には、延床面積200㎡超の建物で、用途区分が変わるときが対象だ。
ただし200㎡以下の建物なら用途変更の確認申請は不要になる。京都の町家や小ぶりな古民家は、この範囲に収まるケースが多い。つまり「手続きの壁が思ったより低い」物件は、実はたくさんある。
📌 用途変更が不要になるケース(目安)
- 延床面積が200㎡以下の建物
- 同じ用途区分内の変更(例:店舗→別の店舗)
- 一部のみを飲食用途にする場合(用途混在)
※物件の状況によって異なります。必ず専門家に確認してください。
飲食店の開業に必要な許可
用途変更とは別に、飲食店として営業するには保健所への飲食店営業許可申請が必要だ。これは物件の広さや用途変更の有無に関わらず、全ての飲食店に求められる。
具体的には、手洗い設備・換気設備・シンクの数・厨房の壁材など、保健所が定める設備基準を満たす必要がある。古民家をそのまま使うと、ここで引っかかることが多い。工事前に図面を保健所に持ち込んで事前相談することを私はいつも勧めている。
事例1|築60年の長屋がスペシャルティコーヒーの店に——西陣エリア
西陣の住宅街の中にある、2階建ての長屋。相続で引き継いだものの、柱が見えている古い造りで「売れる気がしない」と言っていたオーナーだった。
息子さんが一念発起して、1階部分をカフェとして開業することに。2階は居住用としてそのまま残す「一部活用」のパターンだ。
物件のスペックと工事の内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 構造・築年 | 木造2階建て・築約60年 |
| 活用面積 | 1階のみ(約22㎡) |
| 用途変更 | 200㎡以下につき申請不要 |
| 主な工事内容 | 厨房設備設置・手洗い追加・壁・床仕上げ・電気容量アップ |
| 工事費用(概算) | 約280万円 |
| 開業後の状況 | 週5日営業、常連客を中心に安定稼働 |
この事例でポイントになったのは「一部活用」という設計だった。建物全体を改修しようとすると費用が膨らむ。でも1階22㎡に限定すれば、保健所の設備基準を満たしながら最低限の改修で収まる。
「売れない空き家」がオーナー家族にとっての収益物件に変わった。築60年の柱や梁をあえて見せるデザインにしたことで、むしろ雰囲気のある店になった。古いことがマイナスではなく、強みになるケースだ。
事例2|再建築不可の物件がテナントとして貸し出せた——下鴨エリア
「再建築不可って、活用できないんじゃないの?」という声をよく聞く。
正確に言うと、建て替えができないだけで、飲食店として貸すことは可能だ。
下鴨エリアの路地にある木造平屋、約30㎡。道路の幅が建築基準法の接道要件(2m)を満たしていなかったため、再建築不可の扱いになっていた。売却の打診はことごとく断られ、「もう解体して更地にするしかないか」という状況だった。
テナント活用という選択肢
この物件に目をつけたのは、小さな菓子工房を開きたいという移住者だった。自宅兼工房として使いたいというニーズと、物件の雰囲気がぴったり合った。
オーナーはリフォーム費を一部負担する代わりに月額賃料を受け取る形にした。工事費は賃借人側が主体だったが、保健所への申請・図面作成はオーナー側がサポートした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 物件の課題 | 再建築不可・売却困難 |
| 活用形態 | 菓子工房兼テイクアウト店としてテナント貸し |
| 月額賃料 | 5.5万円/月 |
| オーナーの費用負担 | 水回り補修・電気配線:約60万円 |
| 回収見込み | 約11ヶ月で初期投資回収 |
「売れない物件=負債」という固定観念が、このケースで変わった。テナント収益で年間66万円の収入になった。そのうえ空き家特有の管理負担(不法侵入・草刈り・雨漏り放置など)からも解放されている。
再建築不可でも、飲食に使いたいテナントにとっては「雰囲気のある物件」として逆に魅力的に映ることがある。売却市場では評価されなくても、賃貸市場では別の価値を持つことがある、ということだ。
事例3|空き家の1階を地域の喫茶スペースとして活用——山科エリア
山科で相続した戸建て。2階は当面は荷物置きにするとして、1階だけを地域のコミュニティスペース兼喫茶として開放したいというオーナーだった。
収益よりも「空き家のまま放置するより地域の役に立てたい」という想いが強いケースで、私が関わった中でもいちばん記憶に残っている。
低コストで始めるための工夫
このオーナーの場合、収益を最大化するより「いかにコストを抑えて始めるか」が最優先だった。フルスケルトン工事ではなく、既存の内装を活かしながら最低限の設備追加に留めた。
| 工事項目 | 費用(概算) | 備考 |
|---|---|---|
| 手洗い設備追加 | 15万円 | 保健所要件を満たすため必須 |
| 厨房換気扇設置 | 20万円 | 既存換気の補強で対応 |
| シンク・コーヒー設備 | 30万円 | 中古・業務用機器を活用 |
| 床・壁の最低限補修 | 20万円 | クロス張替えのみ |
| 合計 | 約85万円 | 補助金を一部活用 |
合計85万円というのは、カフェ開業の工事としてはかなり抑えた部類だ。「費用をかけたくない」という場合でも、最低限どこに費用をかけなければならないか(保健所基準)を把握すれば、無駄なく進められる。
このオーナーは今、週に3日だけ開けている。収益は月に数万円程度だが、「地域の人が集まる場所ができた」という満足感のほうが大きいと言っていた。空き家活用の形は、ひとつじゃない。
「うちの空き家でカフェ・飲食店にできるか」——判断するための5つの確認ポイント
3つの事例を見てきて、「なんか自分の物件でもできそう」と感じてもらえたなら嬉しい。でも「本当に自分の物件が対象になるのか」を判断する目安も整理しておく。
チェックリスト:空き家の飲食活用に向いているか
以下の項目を確認してみてください
- ✅ 延床面積が200㎡以下(用途変更申請が不要になる目安)
- ✅ 接道している・または接道要件の緩和が見込める
- ✅ 水道・電気が引き込まれている(または引き込み可能)
- ✅ 建物の構造が極端に老朽化していない(柱・基礎が健全)
- ✅ 換気設備の追加・増強が可能な間取り
5つのうち3つ以上当てはまれば、活用を検討できる可能性が高い。もちろん現地を見ないと最終的なことはわからないが、「うちは無理」と諦める前に、まずは状況を整理してほしい。
費用の目安——どのくらいかかるか
| 活用規模 | 費用目安 | 主な工事内容 |
|---|---|---|
| 最低限(保健所対応のみ) | 50〜100万円 | 手洗い・換気・シンク追加 |
| 一般的なリフォーム | 200〜400万円 | 内装全面改修+設備設置 |
| フルスケルトン改修 | 500万円〜 | 構造補強含む全面改修 |
費用をどこまでかけるかは、収益化の目標・初期投資の回収期間・補助金の活用可否によって変わってくる。「いくらかければいいか」より「何のためにどこまでやるか」を先に決めておくほうが、無駄な出費を防げる。
補助金・支援制度も活用できる
京都市では、空き家を活用した改修工事に対する補助制度がある。適用条件は物件の状況や改修内容によって異なるが、主なものをまとめておく。
📋 参考になる支援制度(2025年時点)
- 京都市 空き家改修補助制度(外部リンク)
- 日本政策金融公庫の創業融資(テナントとして開業する場合)
- 小規模事業者持続化補助金(店舗改装費の一部対象になるケースあり)
※制度の詳細・適用条件は変わる場合があります。最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
「カフェにしたい人」を探すのが一番難しい——だからakimiiがある
「物件の改修はなんとかなる」として、もうひとつ大きな課題がある。
「空き家を飲食に使いたい人を、どうやって見つけるか」だ。
身内に飲食店をやりたい人がいれば話は早い。でも多くのオーナーは「そんな人、周りにいない」という状況だ。
不動産ポータルに出しても、再建築不可・狭小・古民家という条件だと反応がないことが多い。売買市場では確かに需要が薄い。
ところが「カフェや小さな飲食店を開きたい」という人にとっては、この手の物件が刺さることがある。家賃が抑えられる・雰囲気がある・立地が住宅街で顔なじみができやすい、といった理由で。
akimiiが持つマッチングの仕組み
akimiiは、空き家を持つオーナーと、宅建士・建築士などの専門家をつなぐプラットフォームだ。単純な物件検索サイトではなく、「この空き家、どう活用できるか」を専門家と一緒に考えるための相談窓口として使える。
オーナーが物件を登録すると、その物件に関心を持つ宅建士・建築士・開業希望者とのマッチングが行われる仕組みになっている。「飲食店として使いたいテナント候補を探している」という相談でも対応できる。
まとめ——「売れない空き家」が「賑わいの場所」になる可能性
今日紹介した3つの事例に共通していることがある。
どれも最初は「どうにもならない物件」だった。築60年・再建築不可・相続して持て余している。売却も難しく、放置するしかないと思っていた。
でも見方を変えたら、動き出せた。
「カフェにしたい」という人を見つけるのは確かに難しい。でも、そういう人がいないわけじゃない。出会う機会がなかっただけかもしれない。
最後に、私がよく言う言葉を一つ。
「空き家は、誰かにとっての夢の場所になりうる」。オーナーがその気になれば、可能性は開いている。まずは話を聞かせてもらえれば、一緒に考えます。
執筆者プロフィール
穴澤陸平(あなざわ ろっぺい)
一級建築士・宅地建物取引士・MBA。コトスタイル株式会社・グッドランプ株式会社代表。京都・関西エリアを中心に300件超の店舗開業・空間づくりに携わってきた。空き家の活用相談では「売れない・貸せない」と思われていた物件を複数のテナント活用につなげた実績を持つ。