
📋 この記事でわかること
休日の朝、鴨川沿いをランニングして頭を整えるのが私の日課です。最近は次男のサッカーのケガも少しずつ良くなってきて、ピッチの外でリハビリを続ける姿を見ながら、「がんばれるときにがんばるんやで」と心の中でエールを送っています。
そんな朝に帰ってきた事務所で、今日も届いていたのがこんな相談でした。
「今は困ってないし、いつか自分たちや子供が使うかもしれないから、とりあえず置いておこうと思って……」
思い出の詰まった実家を手放すのは忍びない。だから「いつか」という言葉で決断を先送りにしてしまう。
そのお気持ち、現場に立ってきた私にも痛いほどよく分かります。
でも、あえて少し厳しいことを言わせてください。
「いつか使うかも」という言葉は、未来への期待ではなく、決断を先送りするためのもっともらしい言い訳です。
一級建築士・宅建士として、コトスタイルで店舗出店・空き家活用の支援に関わってきた立場から、「とりあえず放置」の本当の恐ろしさと、思考停止を抜け出す方法をお伝えします。
なぜ「とりあえず放置」を選んでしまうのか
親が施設に入ったり亡くなったりして、実家が空き家になったとき。多くの人が「売る」でも「貸す」でもなく、「そのままにしておく」という選択をします。
なんでそうなるのか。理由は簡単です。
決断しないのが一番ラクという人間の心理
きょうだいで話し合うのも気まずい。親の荷物を片付けるのも面倒くさい。不動産の知識もないし、どう動いていいかわからない。——だから「今は困ってないからいいや」と、そっと蓋をしてしまう。
これを行動心理学では「現状維持バイアス」と言います。人間は、よく分からない変化を選ぶより、たとえ少し損をしていても今のままの状態でいる方が、精神的にははるかにラクなんです。
「いつか使うかも」という言葉は、この現状維持バイアスが生み出した、自分を納得させるための言い訳です。
感情の問題と不動産の問題が混在している
もう一つ、空き家問題が難しいのは、感情と不動産が絡み合っているからです。
自分が生まれ育った家。親の思い出が染み付いた場所。それを「不動産という資産」としてドライに切り分けることは、心理的にめちゃくちゃ難しい。
「変な業者に騙されて安く手放したくない」「適当に貸してトラブルに巻き込まれたくない」「家族できちんと話し合わないと進められない」——正直で真面目な方ほど、こういう防衛本能が強く働いて、動けなくなってしまいます。
でも、その真面目さが「放置という最大のリスク」を招いていることに気づいてほしいんです。
📌 「とりあえず放置」を選ぶ人の頭の中
- 「いつか子供が使うかもしれない」
- 「定年したら帰ってのんびりしようかな」
- 「今は固定資産税を払えているからまだいい」
- 「何かするにも、まず家族で話し合わないと」
- 「不動産のことはよく分からないし、詐欺に遭いそうで怖い」
「いつか」の99%はやってこない——現場のリアル
「定年したら実家に帰って、のんびり家庭菜園でもしよう」
「子供が大きくなったら、あそこに家を建て直して住むかもしれない」
そんなふうに未来を描くのは素敵なことです。でも、現場のリアルをお伝えすると、その「いつか」が実現するケースは本当に稀です。
10年後・20年後のライフスタイルは誰にも分からない
いざ定年を迎えたとき、奥さんは「今住んでいる便利な街から離れたくない」と言うかもしれない。子供は子供で、自分たちの仕事や学校の都合で別の場所に住まいを構えるのが普通です。
「いつか使うかも」というのは、あくまで今の自分が想像した都合のいい幻想です。
私がこれまで関わってきた事例でも、「10年前に『いつか使うかも』と言っていたが、結局誰も使わなかった」というケースが本当に多い。むしろ使う日が来た例の方が、はるかに少ないんです。
「いつか」を待つコストを計算してみた
仮に「いつか」を10年待つとして、その間に払い続けるコストを計算してみましょう。
「とりあえず置いておく」つもりが、10年間で数百万円が音もなく消えていく——これが「いつか」を待つリアルなコストです。
放置が生む「目に見えない損失」——家は静かに朽ちていく
「別に固定資産税くらい払えるからええやん」——そう思っている方に、少し厳しいことを言わせてください。
家というのは、人が住んで風を通し、水を使っているからこそ状態が保たれるものです。誰も住まなくなった瞬間から、家はものすごいスピードで朽ちていきます。
放置によって起きること——時系列で見る劣化の進行
📋 空き家放置による劣化の目安(木造の場合)
- 1〜2年:湿気でカビ・壁紙剥がれ・畳の傷みが始まる
- 3〜5年:雑草が庭を覆い、シロアリや害虫が発生しやすくなる
- 5〜8年:雨漏りが進行し、柱・床下の腐食が始まる
- 10年〜:構造材の腐朽・シロアリ被害が深刻化。修繕費が数百万円規模に
- 15年〜:建物の安全性に問題が生じ、売却・賃貸が困難になるケースも
放置は「現状維持」ではありません。何もしない間に、建物の資産価値はどんどん目減りしていく「赤字の垂れ流し」状態です。
雨漏りが一番怖い理由
特に深刻なのが雨漏りです。屋根の小さな傷みから始まった雨漏りが、放置することで数年のうちに柱・基礎まで腐食させる。そうなると修繕費は数百万円規模になり、空き家買取業者にも「値がつかない」と判断されることがある。
「少し前まで雨漏りしてなかったのに、気づいたらもうボロボロになっていた」
——これは遠方に住んでいる場合に特に起きやすい悲劇です。
空き家放置のリスクについては、こちらも参考にしてください。
→ 実家の空き家放置が招く本当の危機——固定資産税・雨漏り・買取の出口戦略
固定資産税・特定空き家——放置に課せられるコスト
「固定資産税を払えているから問題ない」という方に知っておいてほしいことがあります。
住宅用地の特例が外れると税金が跳ね上がる
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」という優遇措置があり、固定資産税が最大6分の1に軽減されています。
ところが、管理が行き届かない「管理不全空き家」や「特定空き家」に認定されると、この特例が外れます。結果として固定資産税が最大6倍に跳ね上がるリスクがある。
「うちの実家は倒れそうにもないから大丈夫」と思っている方も要注意です。2023年末からは倒壊の危険がなくても、雑草が茂りすぎていたり窓が割れていたりする「管理不全」な状態でも、同じく特例が外れる仕組みが始まっています。
京都の「空き家税」も2030年度から始まる
京都市では「非居住住宅利活用促進税(通称:空き家税)」が2030年度(令和12年度)から課税開始予定です。居住者のいない住宅を対象に新たな税負担が加わる方向で動いています。
「まだ先の話やし」と放置するのではなく、今から情報を集めて対応の選択肢を残しておく方が、将来の負担が小さくなります。
空き家の税金の詳細はこちらを参考にしてください。
→ 空き家の税金——固定資産税・特定空き家指定のリスクを解説
実例:10年待ち続けて売るに売れなくなった悲劇
ここで、私が実際に相談を受けたある失敗例をお話しします。
Aさんは「いつか息子が結婚したときに住むかもしれない」と、実家を10年間そのまま放置していました。
しかし10年後、息子さんは遠方で就職し、実家には戻らないことが決定。いざ売ろうと思って専門家に見てもらったところ、長年の雨漏りとシロアリ被害で家の骨組みがボロボロになっていた。
「この状態では誰も買いませんし、貸すなら修繕に数百万円かかります。解体するにしても200万円以上かかりますよ」
そう宣告されて、Aさんは頭を抱えてしまいました。
「いつか」を待ち続けた結果、実家はお金を生むどころか、数百万円の持ち出しが必要な「負動産」に変わっていたんです。
Aさんが後悔したこと
Aさんが「もっと早く動いておけば良かった」と言ったこと
- 雨漏りのサインに5年前から気づいていたのに、「まだいいか」と放置していた
- 2〜3社に相談するだけで相場感が分かったのに、面倒で動かなかった
- 息子に「戻るつもりがあるか」を確認せずに10年間待ち続けた
- 解体補助金の申請ができたはずなのに、知らなかった
- 早めに貸し出せば、10年間で数百万円の家賃収入があったかもしれない
Aさんの事例は極端ではありません。現場では同じようなパターンを何度も見てきました。
決断の先送りは、親が残してくれた大切な資産を「お荷物」に変えてしまう、最も危険な行為です。
売る・貸す・活用する——選択肢を並べてから決める
「じゃあ、明日すぐに不動産屋に行って売ってきなさい!」と言いたいわけやないんです。
家族の歴史が詰まった大切な場所ですから、そんなに急いで白黒つける必要はない。大切なのは「何もしないで思考停止する」のをやめること。
売るか、貸すか、自分たちで使うか。その決断を下すための「判断材料」を今のうちに集めておくことが、家計防衛につながります。
主な選択肢と向き不向き
どれが正解かは物件の状況と家族の状況によって変わります。重要なのは、選択肢を並べて比較した上で判断すること。
「いつか」を待ち続けることで、選べる選択肢がどんどん少なくなっていくことを忘れないでほしいんです。
空き家の活用方法については、こちらも参考にしてください。
→ 空き家の活用方法7選——売る・貸す・マッチング・解体を徹底比較
「いつか」を待つ前に、今できる小さな一歩
ここまで読んで「分かった、でも何から始めればいいか分からない」という方へ。
完璧な正解を急いで出さなくていい。大切なのは「思考停止のループから一歩だけ抜け出すこと」です。
まず「建物の状態」を知ることから
何年も実家に行っていないなら、まず現状確認から始めてください。スマホで写真を撮るだけでOKです。
📋 実家に行ったときに確認しておくこと
- ☑️ 外観・屋根・外壁の状態(ひび・剥落・変色がないか)
- ☑️ 床を歩いたときの感触(ギシギシ・フワフワしていないか)
- ☑️ 水回りの状態(水漏れ・カビ・異臭がないか)
- ☑️ 床下・押し入れなど暗い場所でシロアリの痕跡がないか
- ☑️ 窓を開けて風を通す(月に一度でも換気することが最大の予防)
- ☑️ 郵便受けに溜まった通知書・自治体からの手紙を確認する
「家族内での合意」を先送りしない
空き家問題で実際に多いのが、兄弟姉妹間で意見が割れて話が止まるケースです。「長男は売りたい、次男は残したい」——これは不動産の問題というより、関係性の問題です。
相続登記が2024年4月から義務化されています。名義が被相続人のままの物件は売却・賃貸の契約ができません。まず法的な整理を進めることが、選択肢を広げることにつながります。
がんばれるときにがんばって、少しずつでも向き合っておかないと、あとで必ず後悔することになりますから。
世間のアイデアを借りて「家の価値」を再発見する
「どうしたらいいか分からないから、とりあえずakimiiに写真だけ載せてみた。そしたら『ここでカフェをやりたい』という提案が来て、初めて実家の可能性を感じた」
こういう体験をされた方が実際にいます。
不動産屋に「売れません」と言われそうな古い家でも、視点を変えれば「DIYしてアトリエにしたい」という若者にとっては宝物になることがある。「庭の草むしりが大変すぎる家」は、本気で家庭菜園をやりたい人にとっては夢のような物件かもしれへん。
akimiiは「まだ決めていない」段階から使える
akimiiは、空き家の写真を匿名で登録するだけで、「この家でこんなことをやりたい」という提案が世間から直接届くサービスです。
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空き家マッチングについては、こちらも参考にしてください。
→ 空き家マッチングとは何か——空き家バンク・不動産会社との違いと選び方
よくある質問
まとめ——「いつか」ではなく、「今」動くことが資産を守る
ここまで読んでくれてありがとうございます。
「いつか自分たちで使うかも」——その言葉は、決断の負担から逃れるための一番カンタンな言い訳です。でも、その言い訳を使って実家を放置している間にも、家は傷み、価値は下がり、毎年税金だけが消えていきます。
📌 この記事のまとめ
- 「いつか使うかも」は現状維持バイアスが生んだ、もっともらしい言い訳
- 「いつか」が実現するケースは非常に稀。10年間の放置コストは200〜500万円以上になることも
- 放置中に雨漏り・シロアリ・劣化が進み、売却・賃貸が困難になっていく
- 管理不全空き家・特定空き家に認定されると固定資産税が最大6倍になるリスクがある
- 選択肢は売却・賃貸・買取・マッチングなど複数ある。放置するほど選択肢が狭まる
- まず建物の状態を写真で記録し、akimiiで世間の需要を確認してから方向を決める
今週末、実家に風を通しに行ったついでにスマホで写真を数枚撮ってみる。「いつか」という見えない未来を待つのではなく、今の実家が持っている「見えない価値」を探すこと。それが、あなたの大切な思い出の場所を未来へつなぐ、確実な第一歩になると私は思っています。
「いつか」より先に、実家の可能性を世間に問うてみてください。
その小さな行動が、全部変えるかもしれへん。
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穴澤 陸平(あなざわ ろっぺい)
一級建築士 / 宅地建物取引士 / MBA|コトスタイル株式会社・グッドランプ株式会社 代表
コトスタイルとして京都・関西を中心に300件超の店舗開業・空き家活用支援に携わる。建築・不動産・経営の複合的な視点から、空き家の可能性を広げることを専門とする。