京都の空き家事情と制度解説

空き家の「借地権」問題——建物は自分、土地は他人の場合に地主に言われるがままにしてはいけない理由

2026年6月4日

空き家の借地権問題で地主に言われるがままにしてはいけない理由と交渉で解決した実例を解説するイメージ

6月の京都。少しずつじめっとした空気に包まれてきました。この前の週末は、小5の長女のダンスの発表会があって、一生懸命に踊る姿を見ながら「がんばれるときにがんばるんやで」とビデオカメラ越しにこっそりエールを送っていました。家族が夢中になっている姿を見るのが、私にとって何よりのリフレッシュです。

今日も事務所に、ちょっと複雑な事情を抱えた相談が届きました。

「親から実家を相続したんですが、土地が借地だったんです。地主さんに『もう住まないなら建物を壊して更地にして返して』と言われたんですが、何百万円もする解体費は自分持ちなんでしょうか……」

建物は自分のもの。でも土地は他人のもの。地主さんの言うことには絶対に従わなきゃいけない——そう思い詰めて、絶望的な気持ちになってしまうのはよく分かります。

でも、深呼吸してください。地主さんの言うことを鵜呑みにして、自腹で家を壊す必要はまったくないかもしれへんのです。

一級建築士・宅建士として、コトスタイルで空き家活用・不動産支援に関わってきた立場から、借地の空き家をめぐる「権利のリアル」と、不利な状況をひっくり返す交渉の方法をお伝えします。

「地主の言いなり」になるのが一番怖い理由

「土地を貸していただいている立場だから、波風を立てたくない」——ご相談に来られる方は、みなさん本当に真面目で優しい方ばかりです。

だからこそ、地主さんから「もうお宅は誰も住んでいないんだから、土地を返してほしい」と言われると、「わかりました」と反射的に首を縦に振ってしまいがちです。そして「タダでもいいから誰かに差し上げます」と焦って手放そうとしたり、自腹で300万円近い解体費を払って更地にしようとしたりする。

サッカーで言うなら、相手ディフェンダーにちょっと凄まれただけで、自分からボールを場外に蹴り出しているようなものです。

「土地の持ち主が一番偉い」という思い込みを外す

まず知っておいてほしいのは、地主さんに「土地を返せ」と言われても、法律上は簡単には従う必要がないということです。

借地借家法は、家を建ててそこに暮らしてきた人の権利をものすごく強く守っています。地主さんの「もう住んでいないから返せ」という要求は、感情的にはわかりますが、法律的には一方的に通る話ではありません。

「地主さんに悪いから」という気持ちは尊いですが、その感情につけ込まれて不利な条件で手放すことは、親御さんが長年守ってきた財産を捨てることになります。

借地権という「見えない財産」の価値

親御さんが長年、毎月地代を払ってその土地に住み続けてきたという歴史があるなら、そこには「借地権」という強力な権利が発生しています。

借地権は「土地の価格の6〜7割」の価値を持つことがある

借地権は目には見えませんが、れっきとした財産です。土地の場所にもよりますが、土地の価格の6割〜7割もの価値を持つことがあります。

権利の種類
内容
価値の目安
底地(地主の権利)
土地の所有権から借地権を引いた部分
土地価格の30〜40%程度
借地権(借りている人の権利)
土地を使用する権利
土地価格の60〜70%程度
完全な所有権(更地)
底地+借地権が一体になった状態
土地価格100%

つまり、あなたの実家は「他人の土地に居座っているお荷物」ではなく、「目に見えない財産的価値がたっぷり乗っかった資産」です。地主さんの一存で何の補償もなしに「出ていって」と追い出されるいわれは、基本的にはありません。

借地権の種類によって権利の強さが変わる

📋 借地権の主な種類

  • 旧借地法(旧法)による借地権:昭和以前からある強力な権利。更新が繰り返され続いているケースが多い
  • 普通借地権(新法):借地借家法(1992年以降)に基づく権利。存続期間30年が原則
  • 定期借地権:期間が定められており、期間終了で更地にして返す契約

旧法・新法の普通借地権は地主側からの一方的な解約が難しく、借り手側の権利が非常に強いです。

自分の借地権がどの種類かは、契約書を確認するか、司法書士・宅建士に相談して確認してください。

不利な状況をひっくり返す「交渉」の選択肢

借地権の価値を理解した上で、どう動けばいいのか。主な選択肢を整理します。

選択肢
内容
向いているケース
地主に借地権を買い取ってもらう
地主が解体費を負担、さらに解決金を受け取れることも
早く手放したい・地主が土地を取り戻したい意向がある
第三者に借地権ごと売却
地主の承諾が必要。承諾料が発生することも
地主との関係が良好で承諾が得られる場合
借地権付き建物を賃貸する
地主の承諾が必要なケースがある
収入を得ながら権利を維持したい
言われるがまま更地にして返す
解体費を全額自己負担・借地権の価値がゼロに
専門家に相談せずにやると最大の損失になりやすい

地主に「買い取ってもらう」交渉が最も有利になりやすい理由

実は、地主さんの側にも「自分の土地なのに自由にできない」という長年の不満があることがほとんどです。地主さんからすれば、少しお金を払ってでも土地を完全な更地として手元に取り戻したいという強いニーズがあります。

借り手側は「借地権という財産がある」。地主側は「完全な土地を取り戻したい」。この利害が一致すれば、借り手が解体費を負担するどころか、地主側が解体費を負担し、さらに解決金を支払うという合意も十分にあり得ます。

解体費ゼロ・解決金をもらって手放せた実例

現場で実際にあったケースをお話しします。

Bさんは借地上の実家を相続し、地主から「更地にして返せ」と迫られていました。解体業者の見積もりは250万円。手持ちの資金もなく、自己破産すら頭をよぎるほど追い詰められていました。

プロが間に入ることで状況が一変した

そこで私たちが間に入り、地主さんと冷静にお話しをさせていただきました。

「Bさんには借地権という財産があります。でもBさんはもうここには住みません。地主さんが完全な土地を取り戻すために、建物を地主さんの費用で解体し、さらに解決金として少しBさんにお支払いいただく形で合意できませんか?」

結果として、地主さんも「それで長年の借地契約がスッキリ終わるなら」と納得してくださいました。Bさんは解体費を1円も払うことなく、さらに数十万円の現金を手にして、きれいに実家を手放すことができました。

Bさんの実例まとめ

  • ✅ Bさんの解体費負担:ゼロ円(地主が負担)
  • ✅ Bさんが受け取った解決金:数十万円
  • ✅ 地主さんも「長年の借地契約が終わった」と満足
  • ✅ プロが間に入ることで感情的な対立なく解決

「どうせゼロだ」と思っていたものが、プラスに転じた瞬間でした。これが、借地権の価値を正しく理解した上で交渉することの力です。

権利関係の問題に「素人判断」は禁物

空き家バンクに登録する前に立ち止まる

「ややこしいから、とりあえず地元の空き家バンクにでも登録しておこうかな」——そうやって決断を先送りにするのも、実はもったいないことです。

借地権のような複雑な権利が絡む物件は、ただネットに情報を載せただけで買い手が見つかるほど甘くはありません。放置している間にも建物は朽ちていき、地代の支払いだけが家計を圧迫し続けます。

難しい物件だからこそ、放置してはいけない。そして自分たちだけで解決しようとしないことが大切です。

交渉の矢面に立つ「プロ」を味方につける

借地権の整理で一番揉める原因は、「当事者同士で直接話し合ってしまうこと」です。何十年というご近所付き合いの感情や、「貸してやってる」「借りてやってる」という昔からの関係性が邪魔をして、冷静なお金の話ができません。

だからこそ、こういう場面では宅建士・司法書士・弁護士といった専門家を間に挟むのが鉄則です。第三者が法的な事実とお互いのメリットをフラットにテーブルに並べるだけで、こじれていた糸が嘘のようにスルスルと解けることは本当によくあります。

📋 借地権問題で頼るべき専門家

  • 🏠 宅建士・不動産会社→ 借地権の売却・交渉の仲介・相場感の把握
  • 📋 司法書士→ 相続登記・権利関係の整理・契約書のチェック
  • ⚖️ 弁護士→ 地主との交渉が難航した場合・法的紛争になった場合
  • 💴 税理士→ 借地権売却時の譲渡所得税・相続税の処理

プロを頼ることは逃げではなく、あなたと実家を守るための立派な経営判断です。

まず現状を整理してから、次の一手を考える

「とはいえ、誰に相談したらいいかわからない」という方も多いと思います。

まず最初にやることは、「自分が持っている借地権がどの種類か」を確認することです。親御さんが締結した土地の賃貸借契約書を探してみてください。

📋 借地権の空き家で最初にやること

  1. Step 1:土地の賃貸借契約書を探す(契約書の締結年・期間・条件を確認)
  2. Step 2:建物の登記を確認する(相続登記が完了しているか)
  3. Step 3:地代の支払い状況を確認する(滞納があると交渉が不利になる)
  4. Step 4:宅建士・司法書士に相談して借地権の種類と価値を把握する
  5. Step 5:地主との交渉方針を専門家と一緒に決める

akimiiは「建物の活用提案を世間に募集するサービス」です。借地権が絡む物件の場合、法的な権利整理を先に進めることが前提になりますが、「この家にどんな需要があるか」を知る意味では活用できます。活用の方向性が見えると、地主との交渉でも「この家には需要がある」という根拠を示せます。

空き家活用の方法については、こちらも参考にしてください。
空き家の活用方法7選——売る・貸す・マッチング・解体を徹底比較

「更地にして返して」——その前に、
まず借地権の価値を知ることから始めませんか。

akimiiでは写真を登録するだけで活用の提案が届きます。匿名OK・営業電話なし・完全無料。

空き家の可能性を、写真で見てみる →

よくある質問

Q. 地主に「更地にして返せ」と言われたら、従わなければなりませんか?

必ずしも従う必要はありません。旧借地法や借地借家法に基づく普通借地権は、地主からの一方的な解約が法律上認められていません。地主の要求に応じる前に、必ず宅建士・弁護士に相談してください。

Q. 借地権は売却できますか?

売却できます。ただし第三者への売却には原則として地主の承諾が必要です。承諾料(借地権価格の10%程度が目安)が発生することがあります。地主が承諾しない場合は、裁判所に「承諾に代わる許可」を申請できる制度もあります。

Q. 借地権の価値はどうやって調べますか?

路線価図に記載されている「借地権割合」をもとに計算するのが一般的です。国税庁の路線価図で対象エリアの借地権割合(A〜Gで60〜90%程度)を確認し、土地の路線価×面積×借地権割合で計算できます。ただし実際の取引価格は個別状況によって異なるため、宅建士や不動産鑑定士に相談することをおすすめします。

Q. 地代を滞納していると交渉が不利になりますか?

なります。地代の長期滞納は「信頼関係の破壊」として借地契約解除の正当事由になり得ます。交渉を有利に進めるためには、地代をきちんと支払い続けていることが前提になります。滞納がある場合は、まず専門家に相談して対処してください。

Q. 借地権付きの建物を相続した場合、名義変更は必要ですか?

建物の相続登記は2024年4月から義務化されています。建物の名義変更(相続登記)は司法書士に依頼してください。借地権(土地の賃借権)については地主への通知が必要ですが、承諾は不要なケースが多いです。ただし借地権が登記されているかどうかによって手続きが異なります。

まとめ——「更地にして返して」の前に、交渉カードがある

ここまで読んでくれてありがとうございます。

📌 この記事のまとめ

  • 「地主の言いなりになって更地にして返す」のは最大の損失になりやすい
  • 借地権は土地価格の60〜70%の価値を持つ「見えない財産」
  • 地主に「借地権を買い取ってもらう」交渉では解体費ゼロ・解決金をもらえることも
  • 当事者同士で話し合わず、宅建士・司法書士・弁護士を間に挟むのが鉄則
  • 地代の滞納がある場合は先に対処しておくこと
  • まず借地権の種類と価値を専門家に確認してから行動する

借地の上に建つ実家には、親御さんが守り抜いてきた「借地権」という見えない価値が確実に眠っています。地主さんの言葉で思考停止して自腹を切る前に、「うちにも交渉できるカードがあるんだ」という事実を知ってください。

その小さな気づきが、絶望的だと思っていた実家の悩みをスッキリと終わらせる、確実なスタートラインになると私は思っています。

「差し上げます」より先に、
まず借地権の価値を知ることから始めませんか。

akimiiは写真を登録するだけで活用の提案が届くサービスです。匿名OK・営業電話なし・完全無料。

無料で空き家を登録してみる →
穴澤陸平

穴澤 陸平(あなざわ ろっぺい)

一級建築士 / 宅地建物取引士 / MBA|コトスタイル株式会社・グッドランプ株式会社 代表

コトスタイルとして京都・関西を中心に300件超の店舗開業・空き家活用支援に携わる。建築・不動産・経営の複合的な視点から、空き家の可能性を広げることを専門とする。

-京都の空き家事情と制度解説
-, , , , , ,