
📋 この記事でわかること
日差しが少しずつ夏の気配を帯びてきました。休日の朝、鴨川沿いをランニングして心と身体のリズムを整えます。今日も事務所に戻ると、肩を落とした所有者さんからの相談が届いていました。
「実家が空き家になったんですが、手元に直すお金が1円もないんです。もう空き家バンクに登録して『タダで差し上げます』って手放すしかないんでしょうか……」
資金がまったくない。でも親の思い出が詰まった建物をタダ同然で手放すのは悔しい。八方塞がりに感じるお気持ち、よく分かります。
でも、ちょっと待ってください。「直すお金がない=価値ゼロだから貸せない」というのは、実はすごくもったいない思い込みかもしれへんのです。
一級建築士・宅建士として、コトスタイルで店舗プロデュース・空き家活用に関わってきた立場から、あえて1円もかけずに借り手を見つける逆転の発想をお伝えします。
「綺麗にして貸す」という常識があなたの首を絞める
リフォーム資金ゼロ=貸せない、という思い込み
「人に家を貸すなら、水回りを最新にして、壁紙も床もピカピカに直さないと誰も借りてくれない」——ほとんどの所有者さんが、この「不動産業界の常識」を信じ込んでいます。
でも、古い家をフルリフォームするには数百万円から一千万円近いお金がかかります。借金して直したところで、家賃で回収できる保証はどこにもない。
「だから、お金がない自分には空き家活用は無理だ」——そう思考停止して家を朽ちるがままに放置してしまうか、価値がないと思い込んで「差し上げます」と手放そうとする。
でも、なぜ「ピカピカに直さなければならない」と思い込むのでしょうか。それは「普通のマンションを探している普通の人」に貸そうとしているからです。
完璧に仕上がった家を「窮屈だ」と感じる人たちがいる
視点を少しずらしてみましょう。世の中には「すべてが綺麗に仕上がった完璧な家」を求めていない人たちが確実にいます。
自分だけのオリジナルなアトリエを作りたいクリエイターや、週末にDIYを思い切り楽しみたい若者たち。彼らにとって、大家さんが気を利かせて無難な白い壁紙を貼った家は、「自分がいじれる場所がない、つまらなくて窮屈な空間」に見えてしまいます。
お金をかけて綺麗にすることが、かえって物件の魅力を殺してしまうことがある。これが、店舗デザインや空間プロデュースの現場で、いやというほど見てきたリアルな事実です。
過剰なリフォーム投資の問題については、こちらも参考にしてください。
→ 空き家を業者に「丸投げ」すると損をする理由——主導権を守る方法
「現状貸し・スケルトン渡し」とは何か
直すお金がない所有者さんは、どう戦えばいいのか。答えはシンプルです。「直さずに、そのまま貸す」という選択をとればいい。
内装がボロボロなら、いっそ古い壁紙や傷んだ床板を引っぺがして、柱や梁がむき出しになった「骨組み」の状態で貸し出す。あるいは解体すら借主にお任せして、「好きに壊して、自由に作っていいですよ」というルールにして、現状のまま鍵を渡す。
これを不動産用語で「スケルトン渡し」「DIY型賃貸」と呼びます。
大家さんが綺麗にするという常識を捨てて、「空間の余白」を丸ごと借主に委ねてしまう。資金ゼロという弱点が、借りる側には「自分の思い通りに空間を作れる自由度」という最高のメリットに反転します。
むき出しの柱がDIY好きの若者を熱狂させた実例
ここで、私が実際にサポートしたある物件のお話をします。
長年放置されて内装がボロボロの空き家。所有者さんにはリフォーム資金がまったくありませんでした。
そこで私たちは思い切って、痛んだ畳や壁を外し、家の「骨組み」だけがゴツゴツと見える状態にして、「内装DIY完全自由のハコ」として募集をかけました。
すると、どうなったか。「うわ、これめっちゃええやん!自分たちで壁を塗って、秘密基地みたいにしたい!」そう目を輝かせた若いご夫婦が、すぐに入居を決めてくれました。
大家さんは1円もリフォーム費用を出していません。それどころか、入居者さんが自腹で材料を買い、楽しみながら家を少しずつ綺麗に直してくれています。
お金をかけないからこそ生まれる「余白」が、誰かの夢のキャンバスになる。こんなマッチングが、今の時代は本当に増えてきています。
この実例のポイント
- ✅ 大家さんのリフォーム費用:ゼロ円
- ✅ 入居者が自腹で内装改修→家が綺麗になる
- ✅ 「自由に作れる」という希少性が決め手に
- ✅ 入居者満足度が高く、長期居住につながりやすい
「現状渡し」を喜ぶターゲット——こんな人が待っている
「本当にこのボロボロの家を借りたい人なんているの?」と思うかもしれません。います。
「現状渡し・DIY可」に目を輝かせる人たち
- 🎨 クリエイター・アーティスト→ 自分のアトリエを一から作りたい
- ☕ カフェ・小規模店舗の開業者→ 古さがそのままインテリアになる
- 🔧 DIY好きの若いカップル・夫婦→ 二人で作る家がほしい
- 🎸 音楽・楽器演奏者→ 防音対策を自分でできる環境がほしい
- 📸 フォトスタジオ運営者→ 独自の空間を低コストで作りたい
- 🏡 シェアハウス運営者→ 自分たちの仕様で設計したい
家賃を少し安くすれば「お互いにメリット」になる
現状渡しで貸す場合は、周辺相場より少し安めに設定するのがコツです。借り手側は「安い家賃の代わりに、自分で改修する」という交換条件に納得感が生まれます。
大家さんは「改修費用ゼロ・家賃収入あり」。借り手は「安い家賃で自分の理想の空間が作れる」。お互いにとってええやん、となる関係が作れます。
空き家活用の方法については、こちらも参考にしてください。
→ 空き家の活用方法7選——売る・貸す・マッチング・解体を徹底比較
現状貸しで気をつけること——契約書に必ず入れる項目
「現状渡し・DIY型賃貸」は魅力的ですが、「なんとなく貸した」状態はトラブルのもとになります。事前に取り決めを明確にしておくことが大切です。
📋 現状貸し・DIY型賃貸の契約書で決めておくこと
- ☑️ DIYの範囲——どこまで改修してよいか(壁・床・設備・外壁など)
- ☑️ 退去時の原状回復——「現状維持でよい」か「元に戻す」か明記する
- ☑️ 瑕疵担保責任の範囲——「現状有姿渡し・瑕疵担保免責」と明記する
- ☑️ 建物の既存の欠陥の開示——シロアリ・雨漏り・傾きなどを正直に伝える
- ☑️ 工事の届出・許可——建築確認が必要な工事は事前に大家に報告する
- ☑️ 賃貸期間と家賃の設定——定期借家契約にするかどうかも検討する
⚠ 特に注意が必要なポイント
「現状有姿」で貸す場合、売買の場合と違い賃貸では瑕疵担保責任が完全には免除されないケースがあります。建物の安全性に問題がある場合(床が抜けそう・シロアリで柱が腐っているなど)は、最低限の補修が必要です。宅建士に契約書の作成を依頼してください。
諦めて手放す前に、まず世間の声を聞いてみる
「それでも、本当にこのボロボロの実家を借りたい人なんておるんやろか」
理屈は分かっても、いざ自分の実家のことになると自信が持てないですよね。そんなときは、ひとりで悩んで「手放すしかない」と絶望する前に、まず世間の生の声を聞いてみるのが一番です。
akimiiは、空き家の写真を匿名で登録するだけで「この家でこんなことをやりたい」という提案が世間から直接届くサービスです。
「直すお金はないので、現状のままで自由にDIYして使いたい人はいませんか?」と正直に書いてみてください。すると「自分たちで改修してカフェにしたいです」「アトリエのハコとして探してました!」といった、想像を超えたポジティブな提案が無料で届くことがあります。
「タダで差し上げる」なんて諦めの決断をするのは、それからでも遅くはありません。
空き家マッチングについては、こちらも参考にしてください。
→ 空き家マッチングとは何か——空き家バンク・不動産会社との違いと選び方
「このままの姿で、何かできませんか?」
その問いかけが、誰かの心を動かすかもしれへん。
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空き家の可能性を、写真で見てみる →よくある質問
まとめ——「直さないから、誰かの夢になる」
「直すお金がないから、もう空き家活用は絶対に無理だ」——その思い込みは、今日で終わりにしませんか。
📌 この記事のまとめ
- フルリフォームして「普通の借り手」を探すのが唯一の選択肢ではない
- 「完璧に仕上がった家」を窮屈に感じるクリエイター・DIY好きが確実にいる
- 現状有姿・スケルトン渡し・DIY型賃貸——手を入れないことが最大の魅力になる
- 大家さんのリフォーム費用ゼロで、借り手が自腹で家を綺麗にしてくれる事例がある
- 契約書には「DIYの範囲・退去時の原状回復・瑕疵担保免責」を必ず明記する
- 「差し上げます」より先に、akimiiで世間の需要を確認してから判断する
「タダで差し上げる」なんて諦めの決断をするのは、それからでも遅くはありません。まずは今週末、実家の写真をスマホで何枚か撮ってみて、「このままの姿で、何かできませんか?」と世間に問いかけてみてください。その小さなパスが、誰かの心を動かし、絶望的だと思っていた実家に新しい未来の光を当てるきっかけになると私は思っています。
直さないまま、まず可能性を世間に問うてみる。
それが、諦める前の最後の一手です。
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穴澤 陸平(あなざわ ろっぺい)
一級建築士 / 宅地建物取引士 / MBA|コトスタイル株式会社・グッドランプ株式会社 代表
コトスタイルとして京都・関西を中心に300件超の店舗開業・空き家活用支援に携わる。建築・不動産・経営の複合的な視点から、空き家の可能性を広げることを専門とする。