
📋 この記事でわかること
休日の朝、鴨川沿いをランニングしていると、すれ違う人たちの表情もどこか明るく見えます。捻挫で戦線離脱していた次男も、ようやく少しずつボールを蹴り始めました。「焦らず、でもがんばれるときにがんばるんやで」とピッチの脇から静かにエールを送る週末です。
今日も事務所に戻ると、こんな相談が届いていました。
「将来、自分たちや子どもが住むかもしれないんです。それまでの間だけ人に貸せたらいいんですが、一度貸したら立ち退いてもらえないんじゃないかと不安で……」
自分が使わない間だけ誰かに使ってもらえれば、こんなにありがたいことはない。でも「立ち退き料で何百万円も揉めた」なんて話を聞くと、怖くて踏み出せない。
そのお気持ち、現場にいる私にも痛いほどよく分かります。
でも、大家さんの最大の不安を法的な契約でスパッと解決できる方法があります。「定期借家契約」です。
一級建築士・宅建士として、コトスタイルで店舗開業・空き家活用の支援に関わってきた立場から、立ち退きトラブルを防ぎながら期間限定で安全に貸し出す方法をお伝えします。
貸したいけど貸せない——所有者の本当の不安
「家を人に貸すのは、子どもを嫁に出すようなもの」——昔の大家さんはよくそう言いました。それくらい、一度貸した家を返してもらうのは大変なことだったんです。
日本の法律は「借りる側」を強く守っている
日本の借地借家法は、基本的に「家を借りている人」を強く守るようにできています。一般的な普通借家契約で家を貸した場合、住んでいる人が「更新したい」と言えば、大家さん側から「自分が住みたいから出ていって」とお願いするのは至難の業です。
無理にお願いしようとすれば、高額な立ち退き料を払わなければならないケースがほとんどです。
「貸して収益を得たい」という気持ちと、「二度と家が戻ってこないかもしれない」という恐怖。
この二つがぶつかり合って、「どうしていいか分からないから、とりあえず空き家のまま」という先送りになってしまう——これが現場で一番多いジレンマです。
「いつか使うかも」という計画がある方ほど、この不安は大きい
「5年後に子供が結婚したら住まわせるかもしれない」「定年後に実家に戻りたい」——具体的なプランがある方ほど、「貸したら戻ってこないかも」という恐怖が強く働きます。結果、家は誰も使わないまま月日だけが経っていく。これが「正しい判断をしようとした結果の、最悪の結末」になってしまうことがあります。
「貸さない」という選択が招くリスク
貸すのが怖いからといって放置しておくのは、実はもっと怖い選択です。家というのは、人が住んで風を通し、水を使っているからこそ状態が保たれます。空き家になった瞬間から、ものすごいスピードで朽ちていきます。固定資産税・火災保険料・維持管理費は毎年確実に出ていく。
家を守りつつ将来の選択肢も残しておく。そのための「ちょうどいい落としどころ」が、定期借家契約です。
空き家放置のリスクについては、こちらも参考にしてください。
→ 「いつか使うかも」は空き家放置の最大の言い訳——決断の先送りが生む本当の損失
定期借家契約とは何か——仕組みと安心感
定期借家契約。名前は堅苦しいですが、ルールはとてもシンプルです。
「あらかじめ決めた期間が来たら、契約が必ず終了して、家を明け渡してもらえる」という契約方法です。
最大のポイントは「更新がない」こと
普通借家契約では、借り手が「まだ住み続けたい」と言えば契約を更新できます。大家さんが「出ていって」と言っても、正当な事由がない限り断れません。定期借家契約は違います。最初から「○年間限定」と決めて契約するため、期間が来た時点で契約は確実に終了します。
もちろん、お互いが合意すれば「再契約」して住み続けてもらうことは可能です。でも、それはあくまで大家さん側の合意があってのこと。主導権は大家さんにあります。
普通借家契約との違い——どちらを選ぶべきか
📋 どちらを選ぶか——判断の基準
- 🏠 将来、自分や家族が住む予定がある→ 定期借家契約
- 🏠 転勤・海外赴任など期間が決まっている→ 定期借家契約
- 🏠 売却か賃貸か迷っている段階→ 定期借家(短期)で様子を見る
- 🏠 長期的に貸し続けて安定収入を得たい→ 普通借家契約
定期借家契約の手続きと注意点
定期借家契約は、普通借家契約より手続きが厳格です。法律で定められた手順を守らないと「定期借家の効力がない」と判断されることがあります。
📋 定期借家契約を結ぶための手順
- Step 1:宅建士・不動産会社に仲介を依頼する
- Step 2:「更新がない・期間終了で退去する」ことを書面で事前に説明する(口頭だけでは無効)
- Step 3:書面による契約書を作成・交付する
- Step 4:期間終了の1年前〜6ヶ月前に「契約終了の通知」を書面で送る
- Step 5:期間終了→退去→必要に応じて再契約の交渉
⚠ Step 2の書面説明がない場合、定期借家としての効力が認められないことがあります
「終了通知の忘れ」が最も多いミス
1年以上の契約の場合、期間満了の1年前〜6ヶ月前に書面で「この契約は○月○日に終了します」と通知しなければなりません。この通知を忘れると、期間終了後も退去させることができなくなります。
カレンダーに必ずリマインドを入れるか、不動産会社に管理を委託することをおすすめします。
転勤3年間だけ貸してスムーズに戻れた実例
ここで、私が関わったご家族の事例をご紹介します。
Aさんは念願のマイホームを建てた直後に、会社から「3年間の地方転勤」を命じられてしまいました。せっかくの家を空き家にするのはもったいない。でも普通に貸して立ち退きで揉めるのだけは嫌や、と悩んでおられました。
そこで「期間を3年間に限定した定期借家契約」を提案しました。ちょうど「家を建て替える間の仮住まい」を探していたご家族に借りていただけました。3年後、Aさんが転勤から戻るタイミングで契約はきっちりと終了。家賃収入でローン返済がカバーできただけでなく、人が住んで空気を入れ替えてくれていたおかげで家はまったく傷んでおらず、きれいな状態のまま手元に戻ってきました。
Aさんの事例まとめ
- ✅ 3年間の家賃収入でローン返済をカバー
- ✅ 空き家放置による劣化を防げた
- ✅ 立ち退きトラブルなし・スムーズに戻れた
- ✅ 借り手側も「期間限定で安く住めた」と満足
期間限定だからこそ生まれる「意外な需要」
「たった数年しか住めないような家、誰も借りてくれへんのちゃうか」と思うかもしれません。でも逆に「期間が限定されているからこそ借りたい」という人が世の中にはいます。
「期間限定」を逆に求めている人たち
- 🏠 家を建て替え中のファミリー→ 1〜2年間だけ仮住まいが必要
- 🎓 大学・専門学校に通う学生→ 4年間だけ安く借りたい
- 💻 テレワーク・移住体験者→ まず数年だけ試してみたい
- ☕ 週末カフェ・期間限定店舗の開業者→ 短期間でも場所が借りたい
- 🎨 制作期間限定のクリエイター→ プロジェクトが終わったら解放したい
家賃を少し安くすれば「お互いええやん」になる
定期借家で貸す場合は、周辺相場より1〜2割安く設定するのがコツです。大家さんは「確実に家が戻る安心」を得られる。借りる側は「期間が限られる代わりに安い家賃で住める」。お互いの条件がパチッとハマれば、両者にとってめっちゃ「ええやん」となる関係が作れます。
まず世間の声を聞いてから契約を考える
「うちの実家を数年間だけ借りたい人なんて、本当におるんやろか」
理屈は分かっても、いざ自分の実家のことになると自信が持てないですよね。そんな時は、まず世間に「この家、期間限定で使いたい人はいませんか?」と軽く聞いてみるのが一番早いです。
akimiiは、空き家の写真を匿名で登録するだけで、「この家でこんなことをやりたい」という提案が世間から直接届くサービスです。「いずれ自分たちで使う予定があるので、5年間だけ貸したいです」と条件を書いておくと、思わぬ反応が届くことがあります。
「なんや、期間限定でもこんなに面白がってくれる人がいるんや」——その事実に気づけるだけで、決断の重圧がフッと軽くなります。
空き家マッチングについては、こちらも参考にしてください。
→ 空き家マッチングとは何か——空き家バンク・不動産会社との違いと選び方
「いつか戻る家」を守りながら、誰かに使ってもらう。
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空き家の可能性を、写真で見てみる →よくある質問
まとめ——「いつか戻る家」を守りながら活かす、定期借家という選択
📌 この記事のまとめ
- 普通借家は「借り手が更新を望めば大家は断れない」。立ち退きは至難の業
- 定期借家契約は「期間が来たら確実に返ってくる」。将来自分で使う予定がある人に最適
- 手続きは書面による事前説明が必須。終了通知のタイミング(1年前〜6ヶ月前)も忘れずに
- 家賃を相場より1〜2割安くすることで、期間限定でも借り手は見つかる
- 建て替え中の仮住まい・学生・テレワーク移住者など「期間限定を求める人」は確実にいる
- akimiiで需要を確認してから契約形態を決めると判断がスムーズになる
空き家の活用は「白か黒か」のゼロ百で考える必要はありません。「今は貸して、後で自分が使う」という柔軟な選択ができる時代です。まずは今週末、実家に風を通しに行ったついでに写真を数枚撮ってみてください。その小さな行動が、立ち退きの不安を消し去り、あなたとご実家の豊かな未来をつくる確実な一歩になると私は思っています。
「いつか戻る場所」を守りながら、
今の空き家を誰かの役に立てませんか。
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穴澤 陸平(あなざわ ろっぺい)
一級建築士 / 宅地建物取引士 / MBA|コトスタイル株式会社・グッドランプ株式会社 代表
コトスタイルとして京都・関西を中心に300件超の店舗開業・空き家活用支援に携わる。建築・不動産・経営の複合的な視点から、空き家の可能性を広げることを専門とする。